Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

  “初夏の翠の
 


 七月七日といえば“七夕”で、これは中国の古い言い伝えから発した伝統行事。天帝が天の神様たちの衣となる機織り名人の“織女”と、これも働き者の牛飼い“牽牛”を妻合わせたところ、二人で居ることがあまりに楽しかったため、彼らはそれぞれの仕事をお座なりにし、しまいには放り出してしまったので。それではいかんと怒った天帝様、罰を与えねばと二人を“天の川”のそれぞれの対岸へと引き離してしまわれた。天を二つに分けるほどもの大河なれば、二人は声さえ聞こえぬ遠きに離されて。これでようやく仕事に戻るかと思われたものの、あんまり悲しげに嘆いてばかりいる彼らなものだから、それもまた哀れと思し召した天帝様、彼ら二人へこう告げた。

 『一年に一度、
  七月七日の晩にだけ、天の川へカササギの橋を架けて逢うことを許してやろう。』

 但し、雨が降ったりしたりなば。カササギたちも寄ってはくれぬ。そんな悲恋のお話を元に、機織りや書道、詩歌や音楽が上達しますようにと祈る儀式としてのそれが、日本へは奈良時代には既に伝わっていたらしく、

 「たーにゃばた?」
 「たなばた、だよ?」

 幾らか時代が下った平安時代でも、まだまだ笹に短冊や飾り物を下げるところまでは至っておらず、宮廷の四方へ卓を据えての供え物をし、一晩中お香を焚いて詩歌の宴が行われたのだとか。という訳で、このころの“七夕”と言えば、もっぱら宮中での、それも大人の方々が集う催しであり、
「お館様も帝や東宮様からのご招待を受けてはおいでだろうけれど。」
 さて、お運びになるやらどうやら。あああ勿体なや、帝からの覚えもうるわしく、出世の切っ掛けにもなろうにと、普通一般の貴族なら押しいただいて喜ぶだろうお誘いだってのに、
『詰まんねぇ顔ばっかが仰々しく居並んでの、さして芸もない詩歌の宴だぜ?』
 そんな退屈な集まりになんぞ出向いても、時間と体力の無駄だとばかり。瀬那の知る限りお運びになった覚えは一度もない。春からこっちのずっと、梅や桜や藤やかきつばたなどなどの、様々な花見の宴へのお誘いも、片っ端からの悉く、蹴って通して来られた剛の者。特に目新しいことでもない限り、恐らくは今年も行かないで過ごされるのだろなというのが目に見えており。

 “ま、ボクには関係のないことだし。”

 いやいや、多少は。宮中のうるさ方が何やかんやとまたぞろ騒ぐには違いなく、その余波がセナくんへも、少しくらいは降りかかるに違いないと思うのですが。それでなくとも、陰陽道に関わりある家柄の和子。同じ年頃の見目愛らしき男の子、集めて催す式典もあろう、そういう折には招集をかけられもしよう。そういう場にて…苛められたりはしませんのか?
“それはないです。”
 そうなの?
“だってそれこそ、蛭魔さんチのボクですからvv”
 ………妙なことで胸を張ってどうする、セナくん。
(う〜ん)

 「♪♪♪〜♪」

 ここ数日ほど降り続いてた雨も、今日は朝から上がってて。朝の空気はひんやりひたひた、頬に涼やかで気持ちがいい。お水を吸った土の匂いの清々しさに、何となくウキウキしながら、小さな弟分の仔ギツネ坊やをお膝に抱え、鼻歌混じりに濡れ縁へと腰掛けてた書生のセナくん。

 「ねぇねぇくうちゃん、天帝様、織女様って、ホントにおわすの?」

 そんなことをふと訊いたのは、この小さな男の子が…天世界で神様たちのお使いを担当している天狐たちの皇子様でもあったからだったけれど。でも、それを訊いちゃうのって、色んな意味からルール違反なのでは? 若しくは大きな矛盾がなくはありませんか? だって、現に くうちゃんという“天狐”さんがおいでだってのに、ねぇ?

 「うや?」

 不意な問いかけへ、ふ〜むと鹿爪らしくも考え込んだ小さな坊や。頭の後ろへ高々と、お尻尾みたいに結い上げた、甘い茶色の髪をふりふりと揺らすと、かっくりこっくり、しきりと何やら考えていたようだったものの。にゃは〜〜〜っと微笑って、小さな肩越しに小さなお兄さんを見上げて来ての一言が。

 「わかんないvv」
 「そか、わかんないか〜。」

 それで済むところがまた何ともはや、愛らしい語らいだったりする。ちょこりとお膝へ座らせたまま、お腹あたりを囲うようにしたセナくんの腕へと乗せられた、小さな小さなお手々は白く、ふわふわ柔らかくて蒸かしたてのお饅頭みたい。お肌は見た目こそすべすべだけれど、一丁前にも夏向けの麻生地の単
ひとえに狩袴というこざっぱりとしたいで立ちもしてはいるけど、実は…仔ギツネさんの毛並みの感触がして。冬場はふっかふかだったその肌触りが、夏毛の今はさらさらと気持ちよく、こやって抱っこしてくっついているのが何とも言えず心地いい。そんな訳での仲良しこよし、結構いい気温になっている頃合いだってのに、ぎゅむと抱えての抱えられ、お館様と黒の侍従様がたが何やら調べ物をなさっているのが終わるのを、二人いい子で待っている。
「今宵はね、ちょっと早いけど山祇の丘の小川まで、蛍を見に行くのだって。」
「おたゆ?」
「ほたる。」
 まだまだちょびっと、舌が回り切らないくうちゃんの言いようへ。さりげなくの言い直しをしてやって、新しい言葉、いっぱい覚えさせるのもまた、セナくんのお役目だ。
「川沿いの芦の原に、それは綺麗な緑色に光る蛍がいっぱい飛ぶんだよ?」
「きれえ?」
「そvv」
 途端に“きゃのvv”と軽やかなお声を上げ、手足を振り回すようにして愛らしく はしゃいだくうちゃんだったのが、

  「…?」

 ふっと。じたじた動かしていた手足を止めて、何にもないお空を見上げる。
「くうちゃん?」
 何か見えるのかな? 同じ方向を見上げたけれど、セナには何も変わったものは見えなくて。風もないけど何か匂ったのかしら。放っぽりだされたまんまの草や茂みが、こちらもすこぶるお元気に生い茂る、副の坪庭には。丈の短い笹の株とか、南天の茂みがてんでばらばらに伸びてるばかり。広間の前から角っこで折れての、こちらへと連なる濡れ縁にいた小さな二人であり。お館様の居室でもある広間の言わば“横っ腹”なので、ここにもお館様の強力な結界は張られてある。なので、ややこしい邪妖とかは入り込めないはずなんだけれどと、怪訝に思いつつもさしたる危機感はないままに、辺りを見回していたセナの視野に、

 「よっ♪」
 「阿含さん。」

 何度も視線が通り過ぎたはずなのに、何度目かになってやっと形を捕らえた存在が、気さくに片手を挙げての挨拶を送って寄越す。そんなあっさり看過出来るようなお人じゃあないのにな。野趣を含んで精悍な面差しに、屈強したたかな肢体と上背。道着のような羽織と共のごつい生地で仕立てられたる筒袴という、体術使いの如くな いで立ちの彼こそは。一見すると壮健そうな若い青年という人の姿を保っているが、人には非ずの実は邪妖。蛇の眷属のかなり上位に属する、阿含という名の陰の者。そこまでの細かくはセナもまだ紹介されてはないものの、お館様と結構仲がいいらしい方なのでと。さして警戒もないまま、親しいお声をかけられるまま、彼もまた仲よくしていただいているというところなのだが、
「お久し振りですね。」
「ああ。こっちも結構忙しくてな。」
 土地によっては神様として祀られてもいる存在であり。まま、だからって祈祷を捧げし社を堅く守るなんてな勤勉なことは、柄じゃあないからと手掛けてもいない。気の向くままの自由に振る舞い、好き勝手をやってるだけだと伸び伸びしていなさる御方であり、

 「お、その子が天狐のちびさんかい?」

 さっそくにもセナがお膝へと抱えるくうちゃんに気づいたらしかったものの、そういや、あれれ?

 「あれ? 阿含さん、くうちゃんにまだ逢ってませんでしたっけ?」
 「逢ってません。」

 わざとにセナの口調を真似して見せたが、愛らしい言い方にしようとどんなに声を引っ繰り返しても、そこはやはり…違和感満載であり。がっつりした雄々しい両腕を伸ばしてくると、小さな坊やの脇へと手を差し入れ、ど〜らと軽々抱え上げる。
「おお、毛並みのいいお耳だこと。それに尻尾も。ここの結界のせいで隠し切れてないのだね。」
 こうまでの幼子へ見事に変化
へんげ出来ているのに惜しいことと、屈託なく口にする彼へ、セナが慌てて自分の口元へ指を立てる。
「あ、ダメですよ、しーっ。」
 事情が通じてない人のお耳に入ったらどうしますかと、内緒だと言いたいらしかったものの、
「今更 何言ってんの。」
 こんなお耳がぴょこりと立ってるのに内緒もへったくれもなかろうがと、むしろ呆れたらしい阿含であり、
「ここんチのこんな奥向きまで入り込める存在ってのは限られてもいようから、別に聞かれても困りゃあしないだろ?」
「そうでしょか?」
 そういや、お館様からも特に注意は受けてない。素人である賄いのおばさまも、かわいい飾りをつけてるねぇと感心するくらいで、あまり深く取り沙汰しようとまでは考えてないようだし、それをまたそうと見越しておいでであるらしく、
“そか、あんまり神経質に隠そうとするばっかでもいけないものなんだ。”
 セナくん、一つお勉強になった模様。それにつけても、
「ふかふかな毛並みだの。なのに暑苦しくはないとは、よう出来ているものだ。」
 いい子いい子とあやすように宙へ掲げてやりの、愛でるように懐に寄せてやりのと、随分と気に入ってか、可愛い可愛いとくうちゃんに構いつける彼なのがセナには意外。

 “阿含さんて、実は“可愛いもの好き”だったのかなぁ。”

 似合わないけど、でも、こうやってるのを見る限りは、作ってる態度じゃあないみたいだし。人は見かけによらないなぁなんて、そんな風に思ったセナだったが、ここにお館様がおいでだったなら、

 『なに、美味そう美味そうって意味合いで可愛がっておるのかも知れんぞ』

 なんてな物騒なことを、言い出しかねなかったりするのだが。
(う〜ん) そんなお兄さんのあやすお手々に抱えられてた仔ギツネさん。
「…。」
 初対面の相手だし大人の男の人だからか、さては人見知りしたのかな。何だかずんと大人しいみたいだなと、セナがそちらへも小首を傾げかけたその時だ。

 「こぉーっ、かっかっ!」

 少ぉし堅い、そんなお声が立ったかと思った次の瞬間、

 「…っ、痛たたたたたっっっ!!」

 それまでは御機嫌そうなお声を立ててたお兄さんが、いきなり素っ頓狂な悲鳴を上げた。えっとビックリしたセナが見やると、小さな胴回りを両手がかりで抱っこされてた小さな坊や、そのお手々の親指を、がじぃっと齧っているではないか。
「えっ!? あ、こらっ。くうちゃんっ、何してるのっ!」
 何が何だかと混乱しかかったものの、いけない悪さには違いない。もっと小さい頃、たまに柱や御簾を悪戯して齧ることがあったのを思い出し、その時と同じノリでの叱咤の声を浴びせたものの、
「う〜〜〜〜〜っ。」
 ご丁寧にもまだまだ短めのお鼻の峰へしわを寄せてまで唸りながら、がりがりと咬みついてるお口は一向に開かぬままであり、
「くうちゃんてば、辞めなさいっ。」
 こんなされても落とさないようにとの気遣いからか、手だけは放さない阿含さんのすぐ傍らまで駆け寄って、メでしょと声をかけながら手を伸ばせば、
「…っ。」
 やっとのことお口を開いたそのまま、じたじた身じろぎをして暴れ、セナの腕の方へとぴょいと跳ねて戻って来。そこから…今まで見たことがないほどの怒ったお顔を振り向けると、まだまだ足りぬか“かっかっ”と威嚇するような声を上げ続ける小さな仔ギツネさんには、
「何で何で? どうしたのさ、くうちゃんたら。」
 セナにしてみても初めて観る態度。何がどうなっているのやら、ちっとも判らずで混乱は収まらない。…と、

 「何の騒ぎだ、おい。」

 セナの甲高いお声をさすがに聞き付けたものか、広間の方から濡れ縁を回って出て来たのが、浅葱の小袖に濃紺の袴という清楚な格好で書庫の整理をしていたお館様の蛭魔とそれから、
「くうに何しやがった、こら。」
 とっくの昔に戦闘体制、恐持てするお顔を更に引きつらせておいでなところを見ると、実は背後の蔀越し、こっちのやり取りは察してましたの蜥蜴一門の総帥様こと、葉柱さんとが姿を現し、
「…おとと様っ。」
 セナの腕から今度はそちらへ、ぴょいっと跳ねての移ってったくうちゃんだったけれど。不思議と“怖いの助けて”とかいうような空気はなく、さかさかっと葉柱の雄々しい肩の上へまで駆け登ると、器用にもそこへと四肢を踏ん張り、ふさふさのお尻尾をぶわりと膨らませ、やっぱり“かっかっかっ”と阿含の方へと威嚇するばかり。
「これじゃあ埒が明かねぇな。」
 何がどうしたとの説明が、順序だてて出来るほどお兄さんではない くうだし、何よりこのままではその興奮も収まるまい。その辺りを素早く見切った蛭魔が、白い手をひらひらと煽るようにして見せて、
「お前らは広間に引いておれ。」
 葉柱とセナへ、そうと言い付け、
「だが…。」
 元凶の阿含と彼とを二人きりにするのもまた心配なのか、少々ためらう葉柱へ、
「ああ"?」
 ちょいと脅すようなお声と眼差しを振り向けて、言う通りにしないかと強い態度で押し出せば、
「…判った。」
 式神様は御主の命令には絶対服従が基本。それ以上に、どんな些細なことであれ蛭魔の思う通りにさせてやりたいというのが、葉柱の基本姿勢でもあったりするので。心配よりもそれが勝
まさってだろう、素直に引いて広間へ戻る。そんな彼の大きな背中を見送っておれば。油断なくということか、抱え直された葉柱の懐ろから肩口に乗り上がるようになってのこっちを見やった小さな坊や。やっぱり鋭い形相は収まらぬままであり、角を曲がり切る寸前までじぃっと睨みつけてた念の入れようは、いっそ天晴だったほど。

 「………で? 一体何をして怒らせた。」
 「だから知らねぇっての。」

 歯型がくっきりついた親指をふうふうと吹いて、少しでも痛みを冷まそうとしている蛇神様には、本当に心当たりがないらしく、
「そうか? 大方“柔らかそうで美味そうだ”とか思ってたのを読まれた、とかいうところじゃねぇのかよ。」
「失敬だの。自慢じゃないが、此処へと来るときゃあ食事は済ませて来るようにしてるさね。」
 そうでもしねぇと誰かさんが煩せぇし、それにホントに美味そうなのが居たりも…いやその。
(こらこら) 想いも拠らない展開だったには違いないのだろう。その混乱からか、日頃は憎たらしいほどに余裕で冷静な彼にはらしくもなく、中途半端に言葉を濁した阿含だったが、

  「…ははぁ〜ん、それだ。」

 金髪痩躯のお館様には、早くも原因が見通せたらしい。切れ長の目元をすぅっと伏し目がちにし、すすすっと擦り寄るように相手へ近づくと。雄々しくも精悍な胸板を収めた懐ろからという下から上へ、触れるかどうかというほどもの至近間近を何度か、その美麗なお顔で撫でさするかのような所作にて嗅いでみて。
「お前、此処に来る直前に何か喰うたろ。」
「ああ。雉を一羽な。」
「それだよ。」
「はあ?」
 ちょっと待て、あれはキツネだろうが、
「自分だって肉食だろうに、他人が食うのは許さんてのか?」
 いくら幼子でもそんな矛盾があるかと、眉をしかめた蛇様へ、
「そうじゃなくて、だ。」
 蛭魔は苦笑混じりに肩をすくめる。
「ウチでも確かに、鳥だの猪だの魚だのという生臭ものも食うけれど。何せ俺が神職関係者なもんだから、賄い担当のご婦人が供養を兼ねての清めをしてから調理にかかってくれてての。」
 別にそんな指示を出した覚えはないのだが、元からの心だてであるらしくてなと、擽ったげに微笑ってのそれから、
「それに引き換え、お前の場合。捕まえた折の断末魔の悲鳴までまとわしたままってな物騒ないで立ちで来やがったから、くうが敏感に嗅ぎ取って怯えたのだよ。」
「…ははぁ。」
 言われてみればで、やっとのこと、事情は飲み込めたらしかったが、
「…何だ。」
 少々唖然と…ぽかんとしたように、その意志の傲岸さを映してくっきりした目元を見開いていた彼だったのが気になって。蛭魔がぶっきらぼうに声をかければ、
「いや。」
 それでやっと我に返ったか、くすすと不敵そうに笑ってから、
「わざわざ説明して下さるとはお優しいこって。黙って追い返すとこんな奴でも傷つくと思ったか?」
 今帝お抱えの神祗官補佐たる陰陽師と、強大な力持つ邪妖。場合にも拠るが、あまり相容れない間柄だってのに、気を遣ってくれちゃってと、阿含が薄く嘲笑して見せれば、
「ふん。」
 可愛げのない奴だとでも言いたいか、さして堪
こたえぬままに鼻先で笑い返して、それから。
「なに、お前の方こそ、ただ新顔の天狐を見に来たってだけじゃああんめいよ。」
「おや。」
 何それ、何 買いかぶってくれてんの? わざとらしくも眉を大きに引き上げて、勝手な深読みしてんじゃねぇよと、口調にますますのこと嘲笑の色合いを濃くしかけた彼だったものの、

 「あのチビさんじゃなくての、だが、神憑りなのが出入りしてっだろ。」

 ふ…っ、と。肩から声から力を抜くと、淡とした声音で囁いて、
「ああ。くうのお目付け役がたまに来る。」
「その気配をよ、中途半端な地神が拾って騒いでやがる。」
 神は神でも貧乏神ってな、いやさもっと程度の落ちる連中のくせして、だからこそ過敏なんだろな。自分らがいつ脅かされるか、不用意に怒らせたら一掃されないかと、しなくていい心配をしちゃあ落ち着けずに勇み立ってるのがいやがる。ああいうのは、だが、集まったりキレたりすると、意外な力を出しやがって厄介だからの。
「あの進とかいうのは、こういうことには無頓着だろから。気づいてないならと思って、一応のお節介を言いに来ただけだ。」
「そりゃまた、お心砕いてもらっててすまねぇな。」
 確かに、そんな鳴動があるなんて気づいてはいなかった。小者とてそれなりの存在、馬鹿にするとロクなことにはならない。
「ほとぼりが冷めるまで、此処には来れねくなっちまったから、ちと寂しいが。」
 くつくつ笑った蛇神様、くうを怯えさせたことを言ってるらしく、

 「やっぱ、ああいう小さいの、実は好きなんじゃね?」
 「うっせぇな。つか、やっぱりってこたあ、さっきまでのを覗いてやがったな。」

 どこか余裕で、ふざけ合っての応酬ののち、じゃあなと手を挙げた阿含の姿が宙に溶け入って。ああいうのまでが引き寄せられるとは、

 “天狐の魅力、恐るべきってか?”

 いやいや、あなたの魅力だと思うのですが。ホントに様々な存在が寄り集うお屋敷で、さぁて新しい季節はどんな騒動と共に到来するやら。楽しげに微笑ったお館様の細い肩の先、昨日までの雨にしとどに濡れた椿の葉っぱが、射して来た薄日にちかちかと、綺麗に光って揺れた初夏の朝ぼらけでございます。






  〜Fine〜 07.7.02.〜7.03.


  *平安時代の“七夕”は、
   もっと後の八月半ばに催されたんだろうなと思いはしましたが。
   まま、季節ものということで。
(苦笑)

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv お気軽にvv

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